「クリーピー 偽りの隣人」香川照之の怪演、原作からの変更、私は映画版の方が好きです!
2016年公開、130分。黒沢清監督。
昨年、映画公開の頃に文庫で原作を読んで、ようやく映画版を見ました!
あらすじ
犯罪心理学者の高倉(西島秀俊)は、刑事・野上(東出昌大)から6年前に起きた一家失踪事件の分析を頼まれる。しかし事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)の記憶をたどるも、核心にはたどりつけずにいた。
一方、高倉が愛する妻・康子(竹内結子)と共に最近引っ越した新居の隣人は、どこか奇妙な家族だった。病弱な妻(最所美咲)と中学生の娘・澪(藤野涼子)をもつ主人・西野(香川照之)との何気ない会話に翻弄され、困惑する高倉夫妻。そしてある日、澪が告げた言葉に、高倉は驚愕する。
「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です。」
未解決の一家失踪事件と、隣人一家の不可解な関係。
2つの繋がりに高倉が気付いた時、康子の身に【深い闇】が迫っていた・・・。。
原作よりいい!
原作が好きな方には申し訳ないですが、あんまり私は原作の方が好みではなくって、映画版もあまり期待してなかったんです。
でも黒沢清監督だし…と見たら!
私が原作で「この要素いらんなぁ…」と思っていた部分がガッツリ削られており、スリラー映画としてめっちゃ良かったです(o´▽`o)
主人公の高倉は元刑事で、辞めて犯罪心理学大学講師になっているという設定になってますし、メディア露出があってちょっと有名…みたいなものも削られてます。
(原作ではもともとから大学教授)
ゼミ生と高倉の淡い不倫…的なものも全く出てきません。私もこれ全くいらんと思ってました(*ω*)
そして後半はゴッソリ別のものになっている!
野上の元嫁…とか、ニセ西野の過去…とか、ガッツリ削られておりました。
野上も東出くんが演じていて、高倉の刑事時代の後輩になってますし。
(原作は高校時代の同級生)
映像も不安感と閉塞感あります
ちょっと人物から離れて撮ったシーンが多くて不安感が煽られ高まった頃にズーンと緊張感たっぷりの表情のアップがきて…と、息が詰まって脳の酸素濃度下がります。
斜め上からカメラを傾けて撮ったり、画面の色も夏の設定なのに青みがかって寒々しかったり。
後半出てくる西野の家なんかは、普通の民家とは思えない暗さ。コンクリの壁と防音壁って!どやって作ったんや(*ω*)
説明しない怖さ
香川照之さん演じるニセ西野。
西野じゃない、というところまでは分かるが本当は何者か、どういう生き方をしてきたのか、何人殺しているのか全く明かされないモンスターとして描かれます。
原作ではこのニセ西野の生い立ちや性格や性癖みたいなものが割と詳細に明かされますし、なんか終盤はスリラーというよりはミステリ調になっていきます。
そこがこの小説の好き嫌いの分かれるところなのかなあと思ったりしてます。
ニセ西野のサイコパスっぷりが、詳細に記述されればされるほど「作家という一人の人間の想像力の限界」が見えるというか。
例えば、実際に起こった事件「北九州監禁殺人事件」のルポを読んだりすると、本当の悪魔のようなサイコパスがやること考えることっていうのは、普通の人間とは全く違うんだと、詳細に書かれるほど思います。
そういう意味では、映画版のニセ西野は闇の部分、敢えて描かれない部分があることでモンスター感が増していて、ホラーとしてめっちゃ怖い。
なぜ一家の娘だけは生かすのか、とか、理由が本当は欲しいけど、放りっぱなしにされて不安いっぱいになります。
原作のようにちゃんと説明してもらえると安心するけど、安心しちゃえるとそれはそれで寂しい。
なんせ香川照之さんが怖すぎて!
竹内結子さんの演技もスゲえな〜って思ったんですが、なんせもう香川さんが凄すぎて。
『ニューヨーク・タイムス』のマノーラ・ダーギスは香川照之を「第89回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされるべき5人」に選出した
というくらい、演技力が突出してました。
下くちびるが弛緩した、何考えてるか分からない表情…!
猫背で嫌悪感の出るような物の食べ方…!
腕を前に垂らすだらしない歩き方…!
電柱に貼ってあるどうでもいいようなチラシを剥がして持ち帰る意味不明さ…!
西川美和子監督の「ゆれる」で、気弱で人の良いお兄ちゃん役をやっていた香川さん…
99.9で頭の切れるちょっとダーティな敏腕弁護士をやってた香川さん…
去年Eテレでカマキリのコスプレをしてバッタ愛を語っていた香川さん…
おとなの自動車保険を優しくオススメする香川さん…
もうこの人まじで多重人格なんじゃないかってくらいの変幻自在っぷりで頭の中ぐちゃぐちゃになりました。
今夜のホラー考まとめ
香川さんの顔がしばらく怖くて見れなくなります!ヘルシア緑茶愛飲者はご注意を!
同じ殺人鬼、サイコパスものとしては園子温監督の「冷たい熱帯魚」を思い起こしますが、あっちは「クリーピー」と比べちゃうとポップで明るい!と思えるほど。
さすが黒沢清監督。ずーっと陰湿でしんどい(良い意味で)。